演奏解釈学から学ぶ俯瞰的視点と自己

パリ音楽院で勉強を始めて4年目になった今年。


幅広い観点から作品や演奏への理解を深めたいと思い、

"histoire de  l'études de l’interprétation"  演奏解釈の歴史 という授業を取っているのですが、これがすごく面白い。




一つの作品について様々な観点....時代、背景、演奏家、国柄という観点で

様々な異なるタイプの演奏を聴き比べ、

どんな違いがあり、どんな特徴を持っていて、どんな背景があり、どんな意図があるのか。

などを追求していきます。


それによって、自分が演奏する作品の解釈を考える際に、

*一つ一つの音に、なぜ自分がそのような表現方法や奏法を選ぶのか、

 それらが与える効果や表情など、自分が求めるイメージと合っているか照らし合わせ、

 自分の解釈に根拠を見出す

*自分の持つイメージを表現するためには、どのように弾いたら良いのか、具体策を考える


といった二つの観点から自分自身のアイデアをクリアにする上でたくさんのことを

考えさせられます。


この表現方法や奏法、テクニックの具体策というのは

テンポ・アーテュキレーション・指遣い・ボーイングなどの楽譜上の音符を弾くために

自分が加えなければいけない選択肢や

フレージング・表情付けのためにどんな弓のスピードやどのくらいの圧力を加えるか、

どんなビブラートをいれるか。

などのことで、それが作品の各所の対して自分のもつ音のイメージや求める音を作り出す際に

必要になってきます。






この比較研究で面白いことは、
例えば音楽にもその時代ごとに流行のスタイルがあったり、

社会事情による暗黙の了解のようなルールがあったりします。

強弱のもって行き方、音型の持つ意味、拍感やリズム、グリッサンドやビブラートで生まれる音の種類など、

その時代の流行であり、そこにいる誰もがわかっていることならば、

作曲家はわざわざ楽譜にそれを明記しておらず

演奏者がそれに沿った奏法を期待している場合もあります。

また作曲家それぞれの書法の個性もあり、

フォルテやクレッシェンドといった記号も、作曲家によってニュアンスが異なってきます。

そのため、ただ楽譜に書かれている・書かれていない、という表面的なことだけではなく、

作曲者がどのような意図で記述したか、 

音楽のスタイルや社会事情と合わせて

作曲家と時代の特徴を把握することが重要になります。


それらのことを反映した演奏やそうでない演奏など色々な解釈を比べることで

それぞれの演奏者がどこに重きを置いてあるかを垣間見ることができるのが

この研究のポイントなのではないでしょうか。


またキャラクター、特徴を構成する要素はなにかを考察することで

自分がそれを再現するにはどのようにすれば良いかを考えていくためのヒントになります。






なにごとも

客観性・俯瞰的視点と主観性・個性とのバランスが大切だと思うのですが、

(もちろんどちらかが欠けてはどちらかを見出すことはできませんが)

演奏する上でもそのようなことを踏まえて

自分の作品への向き合い方を深めていくことを大切にしていきたいです。


また俯瞰的に見れてからこそ、

尊重すべき個性に気付き、自分の表現が確立されるのではないかと、思います。



岡村亜衣子

岡村亜衣子 Aiko Okamura | Violinist

Violoniste Japonaise à Paris パリ在住ヴァイオリニスト 岡村亜衣子 オフィシャルサイト

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